浅尾省五の楽園紀行

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2005年10月30日〜11月6日 カナダ チャーチル
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ホッキョクグマ撮影ツアー

2005年10月30日から11月6日に掛けて10名の方々を案内しホッキョクグマの撮影ツアーを実施した。

今回訪れたのはカナダの中央部ハドソン湾に面した小さな町、チャーチル(Churchill)で、この時期ホッキョクグマを見るために世界中から多くの観光客が集まることで有名である。日本からのアクセスはカナダの西海岸の町、バンクーバーから国内線でカナダ中央部の町ウィニペグ(Winnipeg)まで行き、そこでまた飛行機を乗り換え真北に位置するチャーチルまで行くのが普通である。今年のチャーチルの天候はとても暖かく、例年なら10月20日過ぎから凍り始めるハドソン湾も、今年は全く凍りそうな雰囲気ではなく私たちが到着した31日の時点で雪も全く降っていなかった。

10月31日の午後、ウィニペグから小型飛行機に乗り込んだ私たちは機上から広大な大地を見渡しても雪景色は見えなかった。約2時間半の飛行の後、チャーチルの小さな空港に降り立ったが雪は全くなく、これではホッキョクグマの撮影が期待はずれになることは必至であった。参加者の顔を見ても落胆の様子がありありと伺えるどうしようもなかった。

チャーチルの町のはずれにあるレイジーベアロッジ(Lazy Bear Lodge)に入り一休みをした後、夕食を取っていたらハプニングは起きた。真っ暗になった窓の外で大粒の雪が舞っているではないか。皆の顔が一斉に明るくなった。今年初めての雪が降り始めたのだ。雪は夜中も降り続け翌朝起きてみるとおよそ15センチ程の積雪となり昨日とはうって変わり、一面の銀世界と化していた。

チャーチルに着いた晩から今年の初雪が降り始め、翌日は一面銀世界となった。


朝8時にロッジを出発しホッキョクグマを探しに出かけた。新雪の中にホッキョクグマを海岸線を中心に探しに探したが、これまでの暖かい気候のためホッキョクグマたちは海岸線に集まって来てはいない様子で、その日の夕方、遠くの方に1〜2頭のホッキョクグマを発見したものの写真にはならなかった。

翌日も同じようなコースで探し回ったが、殆ど同じような状況で再び参加者の顔色が険しくなり、不満の声が聞こえ始めて来た。この種の旅行は天候と動物の行動により大きく左右され、目的の物が見られないこともあり得る事は参加者には説明はしてあるものの、その場に行くと当然見られて当たり前と勘違いする人もいるのでそれを理解してもらうのは大変だ。

『こんな状況なら来るのではなかった』と愚痴をこぼす声も聞こえていたが、その思いは誰もがある。自然を相手に旅行を経験している人ならこういう状況は当然あり得ることは理解していて、落胆はするものの、それを口に出して言うような人は普通はいない。まるで動物園の動物を見に行くような感覚の人がいるから困ってしまう。


オスのシロフクロウが雪の上から獲物を探していた
ホッキョクグマツアーも3日目となった。
これまでと同じようにロッジを出て海岸線からホッキョクグマを探しながら移動していたら雪をかぶった岩の上にちょこんと何かが居るのをドライバーが見つけた。
Snowy Owl(シロフクロウ)』と私に告げた。
暫くすると後方に座っている人も見つけ急に賑やかになってきた。みな大急ぎでカメラを構えシャッターの音が鳴り響いた。まさかシロフクロウが見られれば、と期待はしていたものの本当に見られるとは思いもしなかっただけに、みんなの顔は明るくなった。



おっとりとした優しそうな顔をしたホッキョクグマが私たちのすぐ側を通り過ぎていった。

その後これまでと同じようなコースでホッキョクグマを探して歩いたところ、昨日までとは打って変わってホッキョクグマたちが近くで見られるようになった。
これまであまり動いていなかったカメラもにわかに賑やかな音を発し始め、とてもいい光景が見られるようになった。私自身も皆さんの明るい顔が蘇ってきたのでホッとした。



昼間でも太陽の高さは低くホッキョクグマのシルエットが美しかった。





座って夕焼けを拝むホッキョクグマ
3日目の夕方、きれいな夕焼けとなった。広大なツンドラを赤く照らす太陽を1頭のホッキョクグマがまるで太陽を拝むかの如く両手をそろえてちょこんと座ったまま落日を眺めていた。それはほんの瞬間であったが人間のそれと同じように太陽を崇める本能を見せてくれた。

夕焼けの中のホッキョクグマは、そう簡単には見られないが、この日はとてもいい光景を見ることが出来たため車内はこれまでと違って大いに盛り上がり賑やかな内にロッジに帰ることが出来た。

これまでは毎日曇り空でなかなか晴天にはならなかったが初めての夕焼けで天候が変わってきた事が伺えた。

これは ヒョッとしたら???
かすかな希望が私の脳裏をよぎった。



ツンドラに沈んだ夕陽の残照は美しかった

夜7時過ぎ、『よかった よかった』の歓声とともにチャーチルでの最後の夜の夕食が始まった。昨日まで飲んでいたビールも、その日は格別の味がした。

しばらく食事をしていたらレストランの従業員が私に 『Northern Light (オーロラ) が出ている』 と教えてくれた。食事をしている全員がレストランの外に出た。チャーチルの町明かりの中で雲一つ無い空一面に壮大なスケールのオーロラが出ていて歓声が上がった。もう食事どころではなかった。
早々に夕食を切り上げオーロラの撮影となった。ロッジのオーナーもすぐに車を出してくれて町明かりのない場所まで皆を連れて行ってくれた。私はあいにくバンクーバーの旅行手配会社と色々と調整事項があったため、郊外には行けなかったがロッジの裏の暗がりで、町の雰囲気を入れながらオーロラを撮影した。

その夜のオーロラはとても明るく壮大であった。満天の星が輝く空に、緑や赤、オレンジ、紫などの光を放ち、まるで天井いっぱいに広げたカーテンが、そよ風に揺られるような動きを見せてくれた。オーロラの色や形、そして場所は刻々と変わり、空一面で大スペクタクルを演じてくれた。夜12時前にバスでオーロラの撮影に行った人たちが興奮しながら帰ってきた。ロッジのオーナーも『このチャーチルでガイドを25年しているが、これまで見たこともない程すごい、まれに見るオーロラだ』と興奮していた。それ程すごいオーロラがチャーチル最後の夜を演出してくれた。



近年にない素晴らしいオーロラがチャーチルの町を飾った。 ISO400 F15mm F2.8  6秒露出

普通オーロラの撮影はフィルム感度を1600に設定し、絞りをF2.8で20秒から30秒の露光が一般的と言われるが、この夜のオーロラはフィルム感度400、絞りF2.8で4秒から8秒程度の露光がベストであった。写真のことが分かる人なら大体想像が付くと思うが、普通見られるオーロラの8〜16倍も明るいオーロラであった訳だ。


宿泊先のLazy Bear Lodgeの前で参加者の皆さんと

4日目はチャーチルを発つ日だが飛行機の便が夕方であるため半日のホッキョクグマ撮影を行ったが、これはといった光景には出会えなかった。

初日に降った雪も、その後は降らず割と暖かい日々が続いたため日陰以外はみんな融けてしまっている。

チャーチルを発つ直前、夕陽が町を染めていた
天候異常はここチャーチルでも明らかで、例年なら10月25日過ぎからハドソン湾も凍り始め、ホッキョクグマたちがこのチャーチル周辺に集結し11月初旬には凍結した氷を渡って餌となるアザラシを求めて移動していく。
従ってハドソン湾が凍り付く直前に一番沢山のホッキョクグマが見られるのだが、天候異常のためその時期がずれている。

チャーチルの町はとても小さく15分も歩けば町はずれになる。いつもは観光客も少ないがこの時期になると世界中からホッキョクグマを見に観光客がやって来て賑やかになるがそれも10月半ばから11月の20日前後までで、その後はまた閑散とした町と化す。

ロッジのオーナーに、又来年も来る事を告げてチャーチルを後にした。